経験や専門知識、人脈を生かしてコンサルタント業を立ち上げる50、60代のシニアが増えています。今回は大手電機メーカーを早期退職し、機械系の技術コンサルで起業された方を紹介します。
前田慶之さん(61)は2018年3月、57歳の時に33年間務めた大手電機メーカーを退職し、同年4月に前田技術士経営研究所(川崎市)を設立されました。現在は「技術経営支援アドバイザー」として活躍中です。
企画・開発・設計・生産技術・生産・品質保証を一気通貫で取り組んできた前職の経験を生かして、大企業から中小企業、ベンチャー企業への機械系技術の指導やセミナーを開いています。
現在は8社とコンサル契約を結んでいます。製造業だけでなく商社や公共研究機関、アイデアだけで製品化のノウハウがないベンチャー企業などに月1〜2回、3〜4時間の技術指導を行っています。
一般的にサラリーマン技術者は年齢が上がるにつれ人事管理などマネジメントの仕事が増えていきます。大好きなモノづくりの仕事に携われるのはせいぜい55歳までです。そうしたこともあり前田さんは起業を決断しました。
前田さんは起業に向けた情報収集の一環として当社がシニア向けに運営している起業スクールを活用されました。自分の経験やスキルを客観的に裏付けするために技術士の資格も取得しました。
顧客を確保する営業活動にも注力しました。行政が運営する中小企業支援の専門家派遣や、民間が手掛ける企業と専門家のマッチングサイトに登録してビジネス機会を探りました。このほか無料で作成できるWEBサービスを使って自分で専用サイトも立ち上げました。このサイトをきっかけにコンサル契約に至ったケースもあったそうです。
前田さんは1つの営業ルートだけでなく複数のルートで顧客を探すようにしました。地道に営業活動することで半年くらいで事業を軌道にのせることができたそうです。
行政の専門家派遣制度としては経済産業省関東経済産業局の「マネジメントメンター登録制度」があります。要件はいくつかありますが、50歳以上の方で1つの専門分野で10年程度の経験がある方が登録資格を持ちます。登録すると経営課題を抱える中小企業とのマッチング交流会に参加することなどができます。
実際の業務で苦労した点はクライアントとの信頼関係を築いていくことでした。どんなに素晴らしい先端技術があっても人的関係がしっかりしていないとプロジェクトは行き詰まってしまいます。知識を押し付けるのではなく相手に共感してもらうことが重要だそうです。
支援した企業が今後の成長に自信を深め「前田さんに来てもらわなくても大丈夫になりました」と報告を受けるときがうれしいと笑顔で話されていました。
コンサルタントは顧客を確保して初めて成り立つ仕事です。前田さんの場合は起業前に必要な資格を取得するなど信頼を得るための準備を怠りませんでした。営業活動でも多様なルートを使って外部との接点を増やすようにしたことが奏功したと思います。(銀座セカンドライフ社長 片桐実央)