50歳から起業した人の多くは前職の延長線上で起業しています。一方で在籍していた会社の顧客名簿やそこで得た情報を利用すると問題になります。そこで、バッティングせずに起業する道として、顧客を新規に開拓する、扱う商品を変える、前職では会社の方針で断っていた案件を起業して手掛ける、前職の下請け先として始めるなど、方法は様々ですが筋を通す必要があります。
取引先とのやりとりや人材の育成にも関わるなど、その事業について経営者並みに精通している人には向いています。
前職と同業で起業して成功した例を紹介します。福島賢造さん(70)は三井物産を退職後、自分が商社時代に培ったネットワークを生かして貿易の仕事をはじめようと?歳の時にKFトレーディングカンパニー(東京・中央)を設立しました。
福島さんは、大手の商社では扱えないような小ロットでの取引を仲介しています。「貿易といっても大手商社と張り合うわけではありません。大手商社が手を出しづらいニッチな分野の取引に活路があると考えたのです。その辺は自分が中にいたのでわかるのです」(福島さん)
現在の主な事業内容は、化学品の輸出入です。中国から原料用の化学品を輸入し、国内の化学品メーカーに納入しています。例えば、肥料の場合では、各種の無機化学品を、肥料の原料として、国内の肥料メーカーへ納めています。
福島さんは自分で貿易の仕事をはじめる時には、法人を立ち上げようと決めていました。海外や国内の企業と取引する時には法人口座が必要だからです。「株式会社にするか合同会社にするかを考えたのですが、海外とのやりとりが多くなること、また設立経費が安いことから合同会社を選びました」(福島さん)
合同会社は、設立に登録免許税6万円がかかります。一方、株式会社設立の場合は、登録免許税15万円と定款認証代として5万円がかかるので、設立時のコストを抑えたい方は、合同会社を選ぶ傾向にあります。どちらも自分1人だけで法人化できます。
福島さんは会社の事務作業などに時間を取られたくなく、その分貿易の仕事に集中したいということで、日々の会計記帳や年に1回の税務申告もアウトソーシングしています。1人で起業する方は、会社を経営していく中で必要な要素をうまくアウトソーシングすることが事業継続上大切です。
起業して苦労したことはやはり、海外との取引ならでは。「荷物がスケジュール通りに届かない」などのトラブルが発生したことだと福島さんは話します。「上海で荷物が船に載れば3日ぐらいで届くのですが、その前に工場で生産が遅れたりね」(福島さん)。もちろんあってはいけないことですが、外国との取引事情については、顧客に十分説明してから契約しているそうです。
そんな福島さんが、事業が軌道に乗ってきたと感じたのは2年目から3年目にかけての時期だそうです。「1社だけとの取引だと不安定ですね。2社、3社と取引先が複数になってようやく軌道に乗ったかなと感じました」(銀座セカンドライフ社長 片桐実央)