川北晃右(こうすけ)さん(74)は、東京・銀座の「大常(だいつね)」という江戸時代から続く青果卸の5代目にあたります。大常は料亭、ホテル、レストランに野菜などを卸しています。川北さんは数年前、会社の主要業務を息子さんに引き継ぎ、働き続けた日々からいったん解放され、自分の時間ができました。
「しばらく遊んでいようと思ったんですよ。実際、2年ぐらい遊んでいたのですが、いやになっちゃって(笑)。やはり現場で働きたくなるんです」(川北さん)
そんな川北さんに刺激を与えたのが、以前この欄で紹介した奥さんの川北操さん。操さんがネイルサロンを開業し、生き生きと仕事している姿を見て、思うところがあったそうです。
実は川北さんは以前から、うどんが好きで食べ歩くのを楽しみにしていました。そこで川北さんは、うどん店を仕事にできないか、と考えるようになりました。しかし、うどん屋さんは、そこら中にあります。差別化して、特色を出さないといけません。
そこで思いついたのが、自分の一番得意な分野である「野菜」をメーンにすることでした。『八百屋がはじめた「うどん屋」』というコンセプトを考えついたのです。
「私は、野菜の目利きに関しては、いささか自信があります。今まで、それ一筋にやってきたわけですからね」
2010年2月、川北さんのお店「大常うどん」(http://daitsune.net/)はオープン。オープン記念で無料のチラシを500枚配り、『50人来ればいいな』と思っていたところ、450人のお客さんがやって来たそうです。
同店では、青果卸の眼で厳選した国産の野菜だけを使います。宣伝はせずに口コミだけ。現在も繁盛中で、わたし(片桐)もたまに食べに行きます。
わたしは常々、「定年起業では、今までの業界経験や人脈を生かし、差別化する戦略を考えるべき」と言っていますが、川北さんのうどん店は、まさにそのいいお手本だと思います。 (取材・構成:藤木俊明)