東京・千代田区三番町、皇居に近い静かな街角にある耀(よう)画廊。画廊主の富田光明(みつあき)さん(75)は、大学で英国文学を教えてきた。英国の詩歌と絵画を結びつけた論文を書き、英国に渡航を重ねるうちに、絵画そのものに魅力を感じるようになり、絵画の購入を始めた。
富田さんは67歳で定年を迎えることになり、退職を機に、何か社会に役立つことをしていきたいと考えた。好きな絵に携わりたい。教員時代に築いた人的ネットワークも生かしたいと考え、若い画家たちの応援のために画廊を開くことにしたという。
富田さんは定年退職の半年前から準備を始め、2012年、東京・九段の一角に耀画廊を開いた。決意をしてから、いろいろな人の支援を受け、ある種の他力本願も大事だと感じたそうだ。その後現在の場所に移転したのだが、取材中にも、絵を好きな客がひっきりなしに訪れてくる。年配のグループや若い女性などさまざまで、初訪問の客も多いという。
富田さんに財政事情を聞くと「赤字続きです」と苦笑いする。若い画家を育てたいという意志は、画廊開設時から変わらず、ある種のボランティア精神だとのことだ。
そして何より、若い才能の交流が楽しいという。富田さんが英国の詩を翻訳したものをモチーフに、若い画家に絵を描いてもらった作品集もある。
「趣味を生かせて、社会に貢献できているという実感があれば、多少つらくても乗り越えられるものですよ」やはり、好きなことをやれているという充実感は大きいようだ。
富田さんは「好きなことでなければ続かないでしょう。最後にプラスマイナスゼロになればいいと思っています」と笑った。体が続く限りはやりたいと語る。(取材・構成 藤木俊明)