今回は少し変わった企業研修を行っている方を紹介します。ココロ・ヅクリ工房(東京・中央)の井ノ口英明さん(48)は、レゴブロックを使った企業研修サービスで2020年2月に起業しました。
井ノ口さんは、機械や化学メーカーでエンジニアとして働いてきました。そんな会社員時代に業績悪化に伴うベテラン社員へのリストラが始まり、それに影響されるかのように、若手社員も会社を離れていく時期がありました。
井ノ口さんはそんな中、「自分が何とかしないといけない」と勝手に使命感に駆られたそうです。「何かできることはないか」と考え、ヒントを求めて色々な勉強会に参加していた時、「レゴ シリアルプレイ メソッド」を使った研修と出合いました。
このメソッドはレゴブロックを教材につかったグループ単位のワークショップです。「幸福とは」「未来のあり方とは」といった漠然とした問いを与え、その答えをレゴの作品で表現していきます。グループで議論を重ねてレゴブロックを組み立てていく過程で、グループ内のコミュニケーションが深まり、相互理解にもつながります。
井ノ口さんはその効果に感心し、さっそく公認ファシリテーターの資格を自力で取得。会社内での研修に取り入れるよう上司に懇願し、実現したそうです。
しかし初めは「レゴ?子供の玩具でしょ?」といった空気だったそうです。それでも研修をしてみると効果はてきめんでした。そこで会社は2人の社員にもファシリテーターの資格を取得させ、井ノ口さんと3人体制で研修に本腰を入れるようになりました。
こうして社内研修が軌道に乗ったタイミングで井ノ口さんは思い切って起業する道を選びました。しかし当初は新型コロナウイルス感染が拡大し始めた折、残念ながら予定していた講演や研修がいくつも流れてしまったそうです。
今は徐々に依頼が増えていますが「もう少し起業のタイミングを見ればよかったな、と思う部分もあるけど、やってみないと分からないから」と笑顔で話されていました。
暗い雰囲気だった職場が「研修後に会話が増え、驚くほど明るくなった」と聞くと、自分事のようにうれしく、やりがいを感じるそうです。
井ノ口さんの手掛ける「おとなのレゴ研修」は、知名度はまだまだです。「お試しからでも構わないので一度受けてみてその効果を知ってほしい」とのこと。「製造業のレゴ研修といえば井ノ口に」というキャッチフレーズを根づかせたいそうです。
起業はタイミングが大事ですが、失敗を過度に恐れないことは大事です。井ノ口さんも「失敗してしまったらサラリーマンに戻ったっていいのだから、一回やってみればいいんじゃない?」と言います。そして「チャレンジした人が評価される、失敗できる世の中になればいいなと」とも話されていました。
何か始めようと思ったときに、まずはうまくいっている起業の先人に助言を求めてみることも一案です。「自分の構想について3人に聞いてみて、同じような問題を指摘をされるなら、その方法がだめかもしれないなど気づくことができるかもしれない」ということでした。起業前から情報収集や人脈作りができていると、起業後に軌道に乗るタイミングがより速くなるのでおススメしたいところです。(銀座セカンドライフ社長 片桐実央)