50歳から起業をするとき、起業のアイデア探しに困る方が少なくありません。起業には関心があるけれど、何の事業で起業したらよいか分からない、という相談です。その時私は3つの円をイメージするようにお勧めしています。
自分の「できること」「やりたいこと」をもとに、さらに「お金になるか」を考えます。この項目で3つの円で描き、円が重なる部分で起業すると成功する確率が上がります。
自分の「できること」「やりたいこと」については、自分自身の棚卸しが必要で、社会人になってからの経験をもとに考えましょう。「お金になるか」は、市場性をインターネット等を使って自分で調べるほか、テストマーケティングをして、実際の顧客の反応を確認する必要もあります。場合によっては3つの円を再度練り直し、軌道修正することも必要です。
今回は、起業後数カ月後に事業内容を替え、事業をうまく軌道に乗せた方をご紹介します。
平山雄三さん(61)は、子どもの頃から科学が大好きで、大手メーカーの研究所で30年以上研究員として勤めてきました。少子高齢化の課題解決につながる仕事をやりたいと考え、退職の少し前に私の起業相談を受け、『3つの円』を書いて方針を整理しました。
平山さんは55歳でメーカーを退職し、ソーシャルウィル(東京・中央)を設立して高齢者向け事業を始めましたが伸び悩んでいました。そこで、3つの円をもう一度実施して、起業して半年ごろ、平山さんは事業内容をそっくり変え、子ども向けプログラミング教室に事業を転換します。
「親に代わって子どもを科学館に連れて行くサービス」を行うときがあり、こちらこそ自分の事業だと感じたのだそうです。「3人の子どもを育てた経験が生かせると考え直しました」(平山さん)
当時はまだ子ども向けプログラミング教室はあまり普及していない状態でした。新宿の貸し会議室を使って教室をオープンしますが、問題が2つ発生したそうです。
1つ目は集客の問題です。なかなか生徒が集まりません。2つ目は貸し会議室なので希望の時間を押さえられず、自由に教室開講のスケジュールが決められないという問題です。また、パソコンなどの機材を置いておけませんので、開講のたびに機材を運び込むのも大変でした。
起業3年目に入り、だんだん資金も減ってきて、困った平山さんは思い切って新宿の現教室を借りることにしました。固定費がかかることになりますが、クラスの時間帯を自由に設定できるようになり、クラス数を増やせるようになりました。
本格的に科学が学べるプログラミング教室が他にないことからウェブサイト経由で生徒が集まるようになり、生徒数は10倍に増えたそうです。
経営もようやく軌道に乗ってきましたが、今度は子ども向けプログラミング教室に大手が参入してきたり、ウェブサイト経由の集客が落ちてきたり、課題は次々出てきます。しかし平山さんは、「科学的思考を子どもに身につけてもらう、というのがうちの強みです。少しずつ事業を拡大できればいい」としっかりと語ります。(銀座セカンドライフ社長 片桐実央)