50歳から起業する人のうち、「営業代行」という仕事で起業する人が一定層います。営業代行は、その名の通り他社の営業を代行して、お金をもらう仕事のこと。依頼主に代わって営業を全て代行する人もいれば、依頼主の営業の人と客先に同行してクロージングを手伝う人もいます。仕事の対価は、売上があがったら、そのうちの数パーセント(大体5~10%が多い)もらうとか、売上に関係なく営業活動の労力代として月数万円等もらうことを依頼主と決めているケースが多いです。起業する事業内容は、営業代行業、営業支援サービス、顧問と名乗っている人もいます。
営業代行業で起業した渡辺謙さん(65)を紹介します。メイン事業は中小企業の営業支援です。コンサルするだけでなく、実際に営業現場に同行して販路拡大のお手伝いをしますので、顧問を務める中小企業からはとても喜ばれています。渡辺さんは元々大手事務機メーカーに勤めていたのですが、定年退職後の仕事に悩み、5年ほど前、起業相談にいらっしゃいました。当日のご相談は、「定年後、起業したいがどのような形で実現すれば良いか」です。
私はいつも、起業する際は「できること」「やりたいこと」「お金を稼げること」の3つの円を書いていただき、その3つの円が重なる真ん中に事業の可能性があるといつもアドバイスしています。渡辺さんにもそのお話をして、3つの円に取り組んでもらったところ、3つの円に真ん中に「何もない!」と書いていらっしゃいました。
しかし、営業職でキャリアを築いた方だったので、渡辺さんは営業支援の事業をおすすめしました。営業活動に悩む中小企業は多いので、「つなぎ役」として活動されたらどうかと思ったのです。渡辺さんのように実力があっても、起業にその力をどのように結びつけたら良いか分からない人は結構多いものです。
さらに、これから起業する渡辺さんに、営業代行で売上を上げる方法として、2つ紹介しました。行政の顧問を中小企業に派遣する制度です。行政には、経験豊富な50代60代の方の実務経験や専門知識、人的ネットワークを活用しようとする制度は数多くあります。
例えば、経済産業省 関東経済産業局のマネジメントメンター登録制度(シニアによる中小企業支援制度)に登録して、顧問先獲得のために中小企業とマッチングしてもらう機会を作っては?とアドバイスしました。さらに、独立行政法人中小企業基盤整備機構の「販路開拓コーディネート事業」で、コーディネーターとして様々な中小企業の販路を拡げることを手伝う道を紹介しました。
渡辺さんは退職後、半年程度の準備期間を経て個人事業主として起業し、営業を代行するために、今ではいくつもの会社の名刺を持って精力的に活動しています。その半年間には、マネジメントメンターや販路開拓コーディネーターにもなりました。
「中小企業とのマッチング交流会に出たのですが、なかなか最初は企業と出会えませんでした。しかし、『聞くこと』を重視するようにして、活動2年目からは、いろいろな企業とマッチングされるようになり、支援活動を経て、企業と個別に顧問契約を結ぶ機会が増えてきたのです」
起業して約4年になる渡辺さんは、顧問を務めている企業の名刺を広げて見せてくださいました。渡辺さんを必要としている企業がこんなにあるのです。